先人の歌(2010年2月号)

花田比露思の歌
 
  憧憬の念
わが心まづしく空し和歌の浦に満つる潮(うしお)の満つる日もなしに
            『さんげ』明治四十三年

万葉調ともいわれる二句切れの歌。先生は先ず最初にご自分の心の内を述べられたそして三句以下に和歌の浦の叙景を結び付けておられる。「満つる潮の」の「の」の比喩的用法が良く効いており、満ちくる潮への憧憬の念が良く伝わってくる。 (水谷和子)

林光雄の歌


  

  白梅賦
地に曳くいかしき梅の影ふみて花に遊べば花のかそけさ
            『無碍光』昭和六十一年

春浅き日、温かな日差を受けて、開花した梅の影がようやく地に届くようになった。薄れ日では影は地に届かない。かそかに咲いた梅の花を賞で、木下を影踏みして歩む喜びを「花に遊べば」と表現された、先生の梅に寄せる思いの深さを知る。  (篠田政夫)

二人詠(2010年2月号)

二 人 詠
 
 関が原にて     篠 田 政 夫  神奈川


関が原の道辺の草木紅葉(もみ)づりて過ぎし合戦(いくさ)の跡を粧ふ
山迫る古戦場跡広からず地に影うつす木漏れ日まばら
合戦に斃れしつはもの弔ひし梵宇薄るる石塔いくつ
もののふの雄叫び絶えて幾星霜秋風蕭蕭(せうせう)咽ぶかに吹く
燃ゆる火の青野が原の夕まぐれ草の枯葉ももの言ひげなる 橘曙覧
荒れ果てし関が原にて燃ゆる火の青野が原と曙覧(あけみ)嘆きし
越前の歌人の詠みし旅の歌志濃夫迺(しのぶや)歌集になき貴重な一首
行きゆきて荒れ野が原に凄愴の気漲るをわれも覚えつ
形見とて曙覧の軸を光雄師に贈りし比露思の思ひは深し
万葉の心もて詠ふ同郷の歌人の歌はまごころ伝ふ
西軍の陣に長宗我部氏を観し妻はご先祖仕へし殿と驚く
みやげには葵の紋の盃(はい)よりもご先祖ゆかりの盃選びたり
「たのしみ」は家族(うから)と小さき旅に来て新しきこと見つけたる時


 藍の国         松 井 一 恵  和歌山

藍玉の青より深き阿波の海行き交ふ舟の白浪は伸ぶ
潮流に揉まるるわかめのブイ黒く沈みつ浮きつ海女のごとくに
しぶき飛ぶ観潮船のデッキには渦巻くたびに歓声上がる
藍染のにほひ籠れる工房に乙女の染めしハンカチ二枚
藍商の古き家並む脇町に上がるうだつは秋の日に照る
縦縞のしじら清しき乙女らのうなじは白しまばゆきほどに
夕暮るる吉野の川に漕ぎ出だす梶取舟の櫓の影長し
茜雲棚引く眉山に日の入れば吉野の川面は藍深みゆく
遍路路に架かれる長き沈下橋渡れば大き虹の湧き立つ
秋風にすすき波打つ紀ノ川の青き川面にゆるる白月
空に向き女子高生のひとり吹くトランペットの音海に消えゆく
藍色の次第に濃くなる阿波の空ディーゼル列車の汽笛が響く

添削の実例(2010年2月)

添削の実例
         
大津留 温
 (原歌) 子守唄五木の里に聞きしなへいよよ染み入る哀しきしらベ
 五木の子守唄を現地で聞いたので、一層身にしみたという歌意だが、聞きしなへが適当でない。なへは動詞の連体形に付いて「と共に」「につれて」を意味する助詞。よって「聞くなへに」とすべきところ。聞きしを生かすなら「聞きしゆゑ」。
 (添削歌) 子守唄五木の里に聞くなへにいよよ染み入る哀しきしらべ
 
 (原歌) たたなはる山を見放くる丘に佇ちひときは高き由布の嶺かも
 「丘に佇ち」と「……高き由布の嶺かも」では上下が続かない。下を生かすとすれば「丘に佇ち見放くれば」とでもすべきところ。丘に佇ちを省いて「山々遠く」とした。
 (添削歌) たたなはる山々遠く見放くればひときは高き由布の嶺かも

 (原歌) 柿二つ子規の好みしはなると思ひ馳せつつ買ひ求めたり
 「柿二つ」は「買ひ求めたり」につづけないと歌が締らない。また柿という言葉を一つですまないか。
 (添削歌) 子規大人の好みまししに思ひ馳せ甘柿二つ買ひ求めたり
 
 (原歌) 車椅子の母似の媼と語らへばありし日の顕つ口調もお洒落も
 しみじみとしたよいお歌だが、「母に似し」はこの歌では一番大事な要素、「母似の」と
つづめると情緒を損う。このため二句が字余りとなっても庄むをえない。
 (添削歌) 母に似し車椅子の媼と語らへばありし日の顕つ口調もお洒落も

 (原歌) コスモスに群れ飛ぶ蝶の二つ三つ花揺れやまず野辺を彩る
 美しい情景だが、「群れ飛ぶ」と「二つ三つ」が相そぐわない。どちらも蝶の状況を言ったものと思うが。蝶の「楽しげに」とした。
 (添削歌)コスモスに群れ飛ぶ蝶の楽しげに花揺れやまず野辺を彩る
 
 (原歌) 美しき紅葉の名所に笑みこぼれ老いし二人は画面もとほる
 絵のように美しい紅葉の名所を老夫婦が廻り歩いている様子と見受けた。「笑みこぼれ」と客観的に言うよりは「笑みこぼし」と主観的に言うがよくないか。「画面もとほる」も
「絵の中を行く」とした。
 (添削歌) 美しき紅葉の名所に笑みこぼし老人二人絵の中を行く
 
(原歌) 青すめる湖色のシャツ似合ふ息の見舞ひたり重き鞄に忙しさ見ゆ
 みずうみ色のシャツが似合う息子が、忙しい中を見舞いに米てくれたという歌意と見た
が、長々しい。「見舞ひたり」は「見舞ひくれぬ」でなければならぬ。
 (添削歌) 水色のシャツの似合ふ息見舞ひくれぬ重き鞄に忙(せは)しさ見せて
 
 (原歌) ふわふわと優しく伝う足底に銀杏のじゅうたん歩き行くなり※
 いちょうの落葉がじゅうたんのように重なった上を歩くのはふわふわと気持がよい。こ
のままでもよいが、宇句を多少整理した。これで一層その感触が表わされたかと思う。
 (添削歌) ふわふわと優しき感触足裏(あなうら)に銀杏のじゅうたん踏みしめい行く

 (原歌) 花みずき一途に深きもみぢ葉は朱く小さき実やさしく抱きて
 小さい実をやさしく抱く主体はこのままでは「もみぢ葉」と読める。「花みづき」とすべきであろう。
 (添削歌) もみぢ葉の残り乏しき花みづき朱く小(ち)さき実やさしく抱く

歌会報告(2010年2月号)

歌会報告

○松山 12・1、開花亭、8名、塩野
 近山の錦に染まるその中に静かに燃ゆる大銀杏あり            栗林 京子
 ごとにいてふ黄葉(もみじ)の色まして風の間に間にちらばふ落葉     門田さかえ

もえぎ 12・5、日本倶楽部、18名、吉森
 堀割に垂るる柳の枝先をかすめ棹さす老いの川舟                        小笠原 嗣朗
 混み合へる部屋に僅かの席保ち新蕎麦を食す門前の茶屋        高橋 盛雄

○久佐乃葉 12・5、ライトハウス、8名、福田
 賜りし友手作りの栗赤飯色良く味良し祭の夕餉                 米光 良子
 うち響く湯の音ひたひた久々に山の出で湯に命温む             馬場 康子

○秋月 12・6、秋月公民館、5名、篠原
 ポスターのみ眺めてゐたる阿修羅展思ひがけなく現に見るとは        才田 和枝
 人の波あふるる館内押されゆき正面に浮かぶ阿修羅に息のむ      田中 悌子

○有楽 12・7、日本倶楽部、14名、栗崎
 末枯れたる水引草に点々と残んの花の小さきくれなゐ              田中 国子
 慕はしき賓頭慮和尚鎮座して慈愛の笑みもて吾を迎ふる           加藤木 梢

○五條 12・10、中央公民館、5名、福本
 雲間より浅き夕月朱色に真土の山はのどかに暮るる             小池 光子

○若葉 12・10、日本倶楽部、12名、福嶋
 卒寿なる比庵の書になるいろはうた長き紙面を自在に踊る         福嶋  等
 忠敬の実測地図にたちきたる荒き波音焚火のにほひ              青木 房枝

○江南 12・12、扶桑福祉会館、22名、松井
 散りのこる桜のもみぢ葉陽に透きてそのくれなゐの滴るばかり        栗田かず子
  「もういい」と言葉投げ捨て夫黙す耳遠くなりし吾に苛立ち             橋本 孝子

○奈良 12・13、社会福祉センター、17名、川合
 眉ひそめ見据ゑたまへる阿修羅像にみ堂は奇しき霊気だだよふ      橋本佳世子
 よろよろと小春日和の径を這ふ蜂のゆくヘを想ふ黄昏             西岡美江子

○東京 12・14、鳥山区民会館、14名、墨
 吾が町の新鮮野菜の瑞々し色美しくして歯触りもよし              菰田 道代
 初活けの梅の古木にきらきらと朝露ひかる新しき年               田所 和代

○あゆち 12・14、布袋北部学供、15名、細川
 六十路過ぎ夢叶ひ立つナイアガラ霧の乙女号より滝つぼ覗く         安藤 幸子
 夫逝きて忌明けの過ぎしこの我に老人クラブの案内舞ひ込む        杉本 信子

京都 12・16、北文化会館、‥‥11名、大石
 さあどうする仕分けの利かぬ普天間基地苛立ちの中クリスマス迫る     福田 慎吾
 寒風にすぐき漬け込む農夫はも八十路なれども生き生きはげむ      荒木 正治

○大阪 12・20、アウィーナ大阪、14名、松井
 もの忘れひどくなりたり次々にかき消ゆるごと物失せゆきて            久米 健寿
 もみぢ散る大原の里の石仏の笑まひにつられ吾も微笑む           向 登志子
 

新人研修報告     重信 二郎

第一回11月2日、第二回12月4日、日本倶楽部にて。参加者は両日とも23名。
「初めて歌を詠まれる方のために」と題して『短歌人門』などを参考に大津留先生の講義。 
万葉集の解説と鑑賞を高橋盛雄さんが、つづいて実朝、松陰、子規、比露思、光雄の歌について
大津留先生の解説があった。
 「かわい過ぎてドキドキしたよ」と言うを聞き出産率の増加期待す     本田 素子
 朝日射し自然に目覚むる幸せよあとから慌てて時計が騒ぐ        小暮  萌
 金木犀逢魔が時ににおいたつすがたは見えずひと惑ひ行く        岡咲 龍昌

編集後記(2010年2月号)

編集後記

投稿歌の書き方について
  1.投稿歌はB5版の用紙にたて書きとする。なかに大型や小型のものがあり編集に難渋。
    また、たまに横長にたて書きのものがある。

  2.二枚以上になるときは、二枚目以降の用紙の左肩に氏名を書き、向かって右肩をのり
    づけする。中に左肩をのりづけする人がある。

  3.一枚目のはじめの行に題(なるべく七字以内)、氏名、都道府県名を書く。

  4.かな使いは旧によるも新によるも自由だが、新カナによる場合は、※印をつける。

  5.同じ漠字が重なるときは、同じ字を重ねるか(例、日日)、々を用いるか(例、日々)は
          各人の自由。
    かなを重ねるときは、一字の場合、同じ字を重ねるか(例、やや)、「ゝ」を用いるか
    (例「やゝ」)は自由。 ただし、二字以上のかなが重なる場合「く」は用いない。

  6.ふり仮名及び註記も許されるが、必要最小限のものとし、その取捨は編集にお任せ
    下さい。 (註記の場合は小文字となる)

京都の冷泉家は干年近く和歌に関する数々の貴重な資料を守って来られた。
  その展示会が先般東京都美術館で行われた。
  古今集以降の多数の歌集、定家の日記である明月記など見ごたえのあるものであった。
  小笠原嗣朗さんがその様子を報告して下さった。

最近、歌壇では口語調の歌が多く見られるようになった。
  一首が口語で一貫しておればいいのだが、一首の中に文語調と口語調とが混じるのは
  よくない。

新会員紹介
  藤田健次(神奈川)上野猛雄紹介。大高玲子(埼王)大高昭喜紹介。
     飯田穣壹(束京)細野宜昭紹介。
  浜根勝彦(奈良)。岡咲龍昌(東京)小笠原嗣朗紹介。本田素子(茨城)大津留温紹介。
  木暮萌(東京)重信二郎

先人の歌 (2010年1月号)

花田比露思の歌

   人の恋しき
揖保川の川原の千鳥小夜ふけてしき鳴くからに人の恋しき
            『さんげ』明治四十二年


歌集「夕凪」の付記に、先生には十基の歌碑があると記されている。これはその中の一つで、兵庫県竜野市の千鳥ケ浜に建立されている。二十七歳の作。地名と実際を巧みに詠みこまれ、旅の夜更けの感傷を、しみじみと詠い上げられている。  (水谷和子)


林光雄の歌


   砂山道
暮れてなほ温もりありてふるさとの砂山道はゆくに親しき
            『無碍光』昭和五十八年


故郷の三国に帰って、砂丘の白い道を歩んでゆくとき、先生はいつも心の安らぎを覚える。家から裏の松山を通って歩くこと三十分で三里浜に着くと言う。夕暮れの砂山道に残る温もりにも、幼い日に遊んだ思い出が蘇って来るようだ。       (篠田政夫)

二人詠 (2010年1月号)

二 人 詠

  好日庵抄     江里口淳一郎  神奈川
                        
屋根うつす水面(みのも)おぼろに定まりて早苗のみどり影のさゆらぐ
秋立ちて黄ばむ稲穂のさゆらぎのおのづからなる見の飽かなくに
虫の音の満つる夕べに明るみのましたる如き桔梗の一花
朝明けにピラカンサスの朱(あけ)こぼれ映ゆる緑葉いと冴えにけり
冬空の雲のうごきのありなしを鈍色(にびいろ)なすに茜の淡き
枯れ草に冬萌えすでに見えそめぬ情(こころ)にうつす草木の勁さ
老いのため君は唱ふや「ふるさと」のリズム韻きて泣けてくるかも
魂(たま)合へる友と語らひ食卓の蕗のたう食(た)ぶ苦味愛(を)しみて
はるけくも十一年の歳月を共に歩みし道を再び
さみどりの風に光るを良寛の里にし見つるバスのハイクに
雲淡く茜にそまる夕ぐれに夏の祭りの白足袋をはく
稲の穂のところどころの黄ばみつつゆらゆら揺るる秋立ちにけり

 
 博多献上道中    坂 下 まち子 福岡

何事のありやと人の溢れ居て献上道中今し始まる
灯明に彩られたる街中を三味に合はせて進む道中
闇を裂く拍子木響き厳粛にい往く道中御供所(ごくしよ)界隈
暮れなづむ博多のまちを練り歩く三歩遅れて続く一行
黒留に博多献上帯を締め島田は揺るるあで姿かな
伝統の博多帯締め提灯を互みに持ちて光を包む
正装の吾娘の項の匂ひたつ目交ひを往く裾さばきかな
幾千の灯明路地を縁取りて足元を照らす献上道中
一キロを歩きてゴールの聖福寺門前の灯の並み揺らぎつつ
灯明に浮かび鎮もる東長寺輪郭おぼろ幽玄の界
承天寺の斎庭彩る灯明のほの揺ぎたり怪しきまでに
厳しき東長寺の六角堂闇に浮かびて神神しけれ

添削の実例 (2010年1月)

添削の実例
        大津留 温

 (原作) 何の鳥たづぬる隙に水中の魚を捕ヘり生きてゐたりき
「生きてゐたりき」の意味がハッキリしないが、この歌の前に「置き物と見まがふ」鳥と
あるから、生きているのかなと思っているうちに体をひるがえして魚を捕った驚きを表わ
す意と思われるが適当とは言えない。なお、「捕へ」のの使い方が間違い。
 (添削歌) 何の鳥たづぬる隙に水中の魚を捕へて飛び去りにけり

 (原作) 善峯の観音様に守られて籠になりしか五葉松かも
四国巡礼のうた。訪ねたお寺の様子を順に歌ったもの。籠になりしかと五葉松かもと感嘆詞が二つある。一つを略して「籠になりけむ五葉松かも」とするか、「籠になりしか五葉の松」とすべきであろう。
 (添削歌) 善峯の観音様に守られて籠となりしか五葉の松は

 (原作) 草かげ夕べをすだく虫なれば若く逝きにし甥の挽歌や
「虫なれば」と理由とするのは適当でない
 (添削歌) 草かげ夕べをすだく虫の音は若くて逝きし甥の挽歌か

 (原作) 七五三晴れ着の童女ら宮杜を馴れぬ草履の鈴の音嗚らし
意味はよく分かるが、鈴の音嗚らしがオカシイ。鈴嗚らし鈴の音聞こゆでなければならぬ。また鈴鳴らし来るか嗚らしつつとすべき。
 (添削歌) 七五三晴れ着のわらは女宮杜を馴れぬ草履の鈴嗚らし来る

 (原作) 枝垂るる庭の柿の木重たげにもぐ人も無く熟しては落つ
「もぐ人もない」と言うからにはどこかに柿の「実」を入れる必要がある。
 (添削歌) 重たげに枝垂(しだ)るる庭の柿の実のもぐ人もなく熟しては落つ
 
 (原作) 夕暮るる陽の落るまでの一刻(ひととき)を歩むこの道明日につながる
「夕暮るる」と「陽の落ちる」とはダブリ気味。どちらか一つは省くがよい。「明日につながる」は「つながらむ」と予想或いは予期とする方がよい。
 (添削歌)陽の落るまでの一刻歩みゆくこの道かならず明日につづかむ

 (原作) 八千代座の古き建物見まく欲り昔のままの姿守りぬ
「見まく欲り」の主体は「われ」、「姿守りぬ」の主体は八千代座。上句と下句のつながりが分明を欠く。上下共われを主体とすれば下句を「昔のままの姿訪ねむ」とすべきだし、八千代座を主体とすれば上句を「古き建物貴重なり」とすべきであろう。
 (添削歌) 八千代座の古き建物見まく欲り昔のままの姿訪ねむ

 (原作) 青き空に鋭き岩石天をつき上弦の月おだやかに白し
「青き空」と「上弦の月」がそぐわない感じ。明け方にしろ夕方にしろ上弦の月が出る頃の空を青き空とはイメージがちがわないか。鋭き岩石の鋭きをするどきとも読むが、ときと読ませてはどうか。おだやかに白しもおだやかに笑むと擬人法を使って見た。
 (添削歌) 見上ぐれば鋭き岩石の天をつき上弦の月おだやかに笑む
 

 (原作) 弟と稲穂の波をかき分けて蝗捕りたる想ひ出遠し
このままでも悪くはないが、「弟と」を「蝗捕りたる」に近づける方が、歌全体の調子が強まる感じ。
 (添削歌) 波立てる稲穂かき分け弟と煌捕りたる想ひ出遠し

各地歌会報告(2010年1月号)

歌会報告

○松山 11.2、開花亭、6名、塩野
  鈴生りの枝に阻まれ回り道柿もみじ濃き山里の秋             尾崎 春風※
  大川の青草原の遠近に枯芒あり風に靡きて                 佐野 幸子

○さわらび 11・2、天沼会議室、9名、羽鳥
  ゆさゆさとゆるる「深山吊橋」のふもとに根を張る巨木を見つつ     羽鳥 佳身
  雨の日は外出かなはず命日の亡夫の奉膳を作りもあへず        藤井 克枝

○東京 11..4、鳥山区民会館、11名、上村
  南天の青き実数多その中に朱に色付く二粒三粒            菰田 道代
  茅葺のローカル線の駅のあり紅葉包む山の間合ひに          矢田 久雄

○五條 11.5、五條公民館、6名、福本
  萩の街に一輪ざし一つ求め来て部屋に一人の秋をたのしむ     福本 艶子

○秋月 11.6、秋月公民館、5名、篠原
  病み篤き師の声か細しされど吾を励ますみ心しかと伝はる       品川百合子
  夏休み子等と連れ立ち川下りハゼも飛び入り喜び増せり       中尾 富子

○有楽 11.6、日本倶楽部、14名、山田
  さくすずの五十鈴の水に手をきよめ老杉しげる参道をゆく         丹羽 信夫
  楕円形の異形の日本大きくて最古の地球儀アメリカは無く       田中 国子

○久佐乃葉  11.7、ライトハウス、7名、福田
  ふるさとの家に帰れば亡き父母の笑顔目に顕つこの蝉時雨      米光 良子
  逝きし息の冥福日々に祈りつつヨタヨタ歩む老の坂道          渡邉 さよ

○もえぎ 11.7、日本倶楽部、19名、柘植
  実験棟「きぼう」の窓ゆ眺むれば青き地球の見えくるかにも       小笠原嗣朗※
  わが住める地球のまるさ身体もて知らむとのぼる球体模型      上村  光

○奈良 11.8、桜井センター、15名、友村
  手術より十日余り経て漸くに歌詠む心はつかに湧きぬ          稲葉 信枝
  「ごめんね」と新聞丸めてたたきたり油虫 あわれ夜の冷えゆく    友村 久子※

○あゆち 11.9、布袋北部学供、15名、細川 
  餅投げにどよめく歓声人の渦カメラのフラッシュ閃光走る         尾関 米子
   不動の森もみぢ始むる櫨の木の濃淡の朱秋の陽に映ゆ         中村美智子

○若葉 11.2、日本倶楽部、12名、墨
  底伝ふおどろおどろの地の音に交じる鳥の音のどやかに聞く    古屋 和利
  秋風の通ふ書院に古書めくる曝書の人の白き手ぶくろ         青木 房枝

○江南 11.14、老人憩いの家、22名、松井
  黄金なす稲穂ことごと刈りし田にすずめ無心に餌をあさりをり       住藤 尚子
  波立てる稲穂かき分け弟と煌捕りたる想ひ出遠し              大井 朝子

○京都 11.15、実相院吟行、10名、菅井
  戸障子を半ば開きて紅葉せる庭ほどほどに見するゆかしさ      米田八重子
   つくばひに滴る水の音も無し映る紅葉の影のみ揺るる          福田 慎吾
 
○大阪 11.15、アウィーナ大阪、15名、久米
  自らの血で書き留めし将兵の遺書の字は濃し眉山のパゴダに    松井 一恵
  床の上に広ごる巨大日本地図まづわが住める場所を踏みたり    野中 智子

新人研修報告     重信 二郎

第一回11月2日、第二回12月4日、日本倶楽部にて。参加者は両日とも23名。
「初めて歌を詠まれる方のために」と題して『短歌人門』などを参考に大津留先生の講義。
万葉集の解説と鑑賞を高橋盛雄さんが、つづいて実朝、松陰、子規、比露思、光雄の歌について
大津留先生の解説があった。
 「かわい過ぎてドキドキしたよ」と言うを聞き出産率の増加期待す   本田 素子
 朝日射し自然に目覚むる幸せよあとから慌てて時計が騒ぐ       小暮  萌
 金木犀逢魔が時ににおいたつすがたは見えずひと惑ひ行く      岡崎 龍昌

編集後記(2010年1月号) 

編集後記

○ 新年おめでとう存じます。今年も皆さんお元気でご精進のほど祈り上げます。

○ あけびの事務局を強化し、貴任を明らかにするため、次のように分担を決めました。
    総括は重信二郎さん。
  記事、原稿に関することは上野猛雄さんと丹羽信夫さん。
  書誌の管理、配送に関することは江藤信昭さんと古殿敬三さん。
  会計に関することは小笠原嗣朗さんと柘植恵介さん。
  よろしく。

○ 11月27日深大寺で開かれた清水比庵展を見学した。比庵先生は花田先生と京都大学以来の
  親友で古くはあけび会員として出詠しておられたが、その後自ら歌誌「窓日」を主宰された。
  「窓日」はいまも比庵先生の画を表紙にして発行されている。
  深大寺山門脇に比庵先生の「門前の蕎麦はうましと誰もいふその環境のみほとけありがたや」の
  歌碑がたっている。
    篠田政夫さんが当日の見学の印象を一文に綴って下さった。

○ 東京の新年歌会は1月11日永田町の全国町村会館で行う。詠題は「色」。
  色という字が入らなくても赤、紫、青などの色が入ればよい。
  事前に提出された作品をまとめて各人に送付し、秀作と見なす五点を当日持ち寄り、高点者には
  賞品が出される。

○ 先日、大阪の久米建寿さんから、「名歌人生読本(二)」を贈られた。
  「短歌のこころ、和のこころ」の副題があり、(二)とあるところから以前に「名歌人生読本」が出されて
  いることを知る。
  万葉集は言うに及ばず古今の名歌を紹介し、解説を試みている。
  久米さんは笹川健次先生に私淑し、その紹介で「あけび」に入られた。
  仲々の勉強家、努力家とお見受けした。
  その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな      与謝野晶子
  けふもまたこころの鉦をうち嗚らしうち嗚らしつつあくがれて行く     若山 牧水   
  などいい歌が沢山ちりばめられている。 
  また書中に
  あなうれしとにもかくにも生きのびて戦やめけるけふの日にあふ   河上  肇 のうたを見出して 
  内田穣吉先生を思い出した。
  お二人とも戦争に反対し、終戦まで獄中生活を余儀なくされたのであった。
  また、平野国臣の「わが胸の燃ゆるおもひにくらぶれば煙はうすし桜島山」を見出し、学生時代によく
  声に出して歌い、気持を高揚させたことを思い出した。
  久米建寿さんのご勉強ぶりに敬意を表し、今後のご精進を祈りたい。

○ 新政権が発足して四ケ月、積年の悪弊をただそうと活溌に活動している様には国民のカッサイを得て
  いるが、現下の不況対策、若者の就業の場の確保、対米をはじめ外交政策等政府としてなすべき
  肝腎のことにぬかりのないよう望みたい。

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