先人の歌(2009年11月号)

花田比露思の歌

   すりぶみ
すりぶみの日にけに栄え言霊のさきはふ国ぞ大和島根は
            『さんげ』明治四十二年


先生は明治四十一年、二十六歳の時に大阪朝日新聞社に人社、経済部記者兼短歌欄選者として活躍された。この歌は朝日新聞創刊三十周年の祝歌として詠まれたものである。「すりぶみ」を「言霊」と捉えられて、先生の意気込みが感じられる。(水谷和子)
 

林光雄の歌
 
  筑波山
常陸野は夕靄ふかくとざせども筑波の山に残る日のいろ

           『にぎたま』昭和三十四年

標高八百七十六米の筑波山の頂より霞ケ浦、土浦などを遠望した先生は、ひろびろと稲田の連なる常陸野に降り立った。振り返ると、たちこめる夕靄の上に、そそりたつ山。秋の日の暮れ行く山並みに「残る日のいろ」が味わい深い。        (篠田政夫)

二人詠(2009年11月)

二 人 詠


 歌集『仮橋』を詠む 大津留   温  東京

異様とも見ゆる表紙絵とくと見ればまぎれもあらず君が自両像
素直にて飾り気のなき君がうた君の人柄そのままのうた
長き年月ドイツに得たる体験は血肉となりて君を支へむ
二十四年経て帰り来し父母の家に少年君の自画像はあり
ペルリンの壁崩るるを肩を組み共に歓喜の歌うたひけむ
この歌集を父母と妻とに捧ぐとふ君のいのちを支へし三たり
弟妹とつねに等しく雑巾がけを君に課したる母の思ひは
何もかも頼る妻君日に幾度君は呼びけむ愛しきその名を
ドクターの称号得たり麻痺の身を支へくれたる友ありてこそ
障害とふ仮面披りて踊りゐる一期と君は思ひますとや
わが麻痺を己が咎とはさらさらに思ひ召すなと父母に呼びかく
耳納嶺は父母に代りて高処より君らがたつきを見守りてゐむ

 
 喜寿の独り言    杉 岡   浩   神奈川

山に谷右に左に別れ道よくぞ来りぬ七十路七つ
秋立つ日やうやく真夏の陽は照るも眼を病む吾の喜寿の日暗し
人住まぬ産土の家どくだみの匂ひに包まれ廃れゆくらし
老い病めば故里遠しわが許に分かち祀らむ大祖(おや)が霊
国敗れ国土復興にひた走る昭和一桁休む術(すべ)知らず
成長期の流れに沿ひて為せし業後世これを無駄とは言はず
国熟し官より民へと時代(とき)移り平成維新の朝を迎へぬ
師は米寿上司は白寿比ぶれば漓(はな)垂れ小憎の吾は要介護
歳に比し足腰強しと励まされ坂道を行く週一の散歩
妻の手を借りて三十一文字綴る盲(し)ひし余生の小さき歓び
もの写さぬ眼を悲しむな色、像(かたち)こころに写し歌詠むがよし
人のため為したきことも為しえずに悔いを背負ひて生くるか吾は

添削の実例(2009年11月号)

添削の実例
           大津留 温

 
 (原作) ビザ発給にユダヤ人六千救ひたる旧領事館の杉原の偉業(わざ)
バルト三国を旅しての歌。ビザ発給と言えば「旧領事館の」は不要。ビザ発給に「夜も日もあらず」を加えた。「偉業」はわざとフリガナを振らなくてもそのままでよくはないか。
 (添削歌) ビザ発給に夜も日もあらずユダヤ人六千救ひし杉原の偉業
 
 (原作) かの時代に生れてませばこの孫(こ)らも参戦やむなき十代なりき
お孫さんを連れ知覧特攻基地を見学してのうた。「ゐませば」は敬語、孫にわざわざ敬語を使うこともあるまい。なお「ます」は「ます」が正しい。「十代なりき」がいさかムリがある。
 (添削歌) かの時代に生まれてをればこの孫(こ)らもあるは勇みて征きにけむかも
 
 (原作) ゴトゴトと時折往きかふ久大線耳納の里を走り溶けゆく
筑後の田園地帯をはしるローカル線。思い出したようにゴトゴトと走る。耳納山系につつまれた風景によく似合っているという歌意。「走り溶けゆく」は「耳納の里に溶け入る景色」とした方がより鮮明になろう。
 (添削歌) ゴトゴトと時折往きかふ久大線耳納の里に溶け入る景色
 
 (原作) 石垣のあひに一本勢ひ咲く朝な夕なに露をふふめり情憬はよく詠まれているが、主体となる花がない。題名に「庭のトレニア」とあるから、それを見て分かるが、歌は一首が独立した存在。トレニアを入れる必要があろう。
 (添削歌) 石垣のあはひに一本勢ひ咲くトレニア露をふふむ朝夕
   或いは「石垣のあはひに勢ふトレニアの朝な夕なに露をふふめり」
 
 (原作) うかららと母の初盆哀しさよまうらに浮かぶ在りしの日々
母上の初盆を営むお気持はよく分かるが、「母」を五句にもって来て「母ましし日々」とした方がよくはないか。
 (添削歌) うかららと営む初盆うら哀しまなうらにたつ母ましし日々
 
 (原作) 木の間より天をめざして羽撃ける五重の塔に鳶の舞ふなり
 「羽撃ける」は鳶に直接つなげたいところ。中に「五重塔」が入って来たのでリズムが狂う。            
 (添削歌) 木の間より天をめざして羽撃ける鳶が舞ふなり五重の塔に

 (原作) 夏の陽を吸込み大きなトマトの球は弾けむばかり水をたたへ
意味はよく分かる歌だが、五句の「水をたたへり」のの使い方が問題。助動詞のは四段活用の動詞にはつくが、上・下二段活用の動詞には付かない。書けり、学べり、行けりとは使うが(四段活用)、映え、滅、捨て(いずれも二段活用)とは使わぬ。滅び、捨て、映えたりと使う。
 (添削歌) 夏の陽を吸て大きなトマトの実弾けむばかりに水たたへたり
 
 (原作)秋うらら上棟なりぬ終の住処秋澄みのよう清く生きなむと※
終の住処となろう家の棟上げがやっと済ませた。これよりは秋空のようにすがすがしく生きようという歌意と読んだ。原作は「秋うらら」、「上棟なりぬ」、「終の住処」、「清く生きなむ」と言葉が草に並んでいて関連づけることばが無い。それで歌意を忖度して次のように替えて見た。
 (添削歌) 棟上げをようやく終えぬこれよりはすがしく生きむ終の住処ぞ※

歌会報告(2009年11月号)

歌会報告

○松山 9・1、開花亭、8名、塩野
  賑はひし蝉の声絶え夕べには虫嗚き初めて長月に入る           門田 富子
  望月を仰ぎて歩む重信の堤一面秋虫の声                   尾崎 春風

○東京 9・2、鳥山区民会館、12名、轟
  ふららこの揺れはいまだに止まざるや地震に断たれしいのち悲しも   富士山早苗
  わが命果つる時にし子供らに良く頑張ったねと言はれたき吾        野田 岩雄

○五條 9・4、中央公民館、6名、浦
  朝露の滴る花束抱へゆき夫の墓前に語らふしばし               小池 光子

○秋月 9・4、秋月公民館、5名、篠原
  日々洗ふ車上の糞を悔みつつ福をもたらす鳥とも喜ぶ             才田 和枝
   堰止めし岩を逆巻く水しぶき延びたる枝葉流す勢ひ                品川百合子

○久佐乃葉 9・5、ライトハウス、7名、福田
   弟は気は優しくて人気者学生の日は野球の投手                 米光 良子
   ふるさとの鎮守の森の杉桧亭々として神域守る                   渡邉 さよ

○もえぎ 9・5、日本倶楽部、17名、大高
    ひと時を疎水の鯉に餌を投げて孤老語らずただ帰り行く                   小川  文夫※
   みぎひだり馬鈴薯の花盛りたる道はま直ぐに天空へ伸ぶ          柘植 恵介※

○さわらび 9・7、天沼会議室、9名、田村
   宿泊の三日続きしサンモリッツ異国の旅とし初めてのこと             村野 道子
   さはやかな葉ずれの音を残しつつ風わたりゆく街路の楓            石川智枝子

○有楽 9・9、日本倶楽部、15名、森下
   夜を徹しビザ書きつぎて六千のユダヤ人救ひし杉原の苦心          奈良平信子
   対岸の白鷺一つゆっくりと川辺を歩く獲物ねらひて                   野田 岩雄

○若葉 9・11日本倶楽部、12名、友成
   末枯れたる胡瓜、トマトを片付けて石灰を撒き深く耕す               福嶋  等
   気に入りの大島紬に残りたる着皺は君の生きの証しや             墨  林衛※

○江南 9・12、扶桑福祉会館、22名、松井
   耳遠く友との会話聞きとれず笑ひにごまかすわれは淋しき           栗田すま子
   いつ来ると明るく聞くは母の声受話器の向かうに笑顔が浮かぶ       浅井 慶子

○奈良 9・13、社会福祉センター、16名、橋本
  「佐用町」とふ地名がはたと目に止まり安否気遣ひニュースに見人る  六山寿美子
   皺む腕にはやもしむるよ涼風が飛機悠然と天翔けてゆく             西岡美江子

○あゆち 9・14、布袋北部学供、14名、細川
   杉木立つづく静寂(しじま)の参道を進む宮参り親子四人し        小島 祥子
   テレビ消し澄みて虫の音聞きながら夜すがら楽し眠りにつきぬ        中村美智子

○京都 9・20、北文化会館、‥‥11名、森
   スルスルとカーテンレール滑らせてさやかに一陣秋風人り来          馬場 康子
   夕陽射す吉田を望む文豪の墓寂として如意を背に立つ              福田 慎吾

○大阪 9・20、アウィーナ大阪、12名、向
   雲の端の茜の色も消え失せてはるか沖より海暮れ初めぬ            野中 智子
   立ちこむる靄が朝日にきらめくを身に纏ひゆく奥つ城の道             吉井  泰

編集後記(2009年11月号)

編集後記

今月号は大津留 直君の『仮橋』鑑賞を特集した。鑑賞文、十首選をお寄せ下さった方々に深謝。
    各歌会におかれてもこの歌集を素材にして意見交換をされてはいかが。

○ 京都の久佐乃葉歌会には目の不自由な方が多い。ここでそれらの方々のためにあけびを
    読んで下さるボランティアの方がおられる。
    「80巻記念合同歌集」を要望に従って読もうとしても読み方が判らぬものが多いと私に電話で
    尋ねて来られた。全巻で百数十ケ所に上るという。そのいくつかを挙げて見る。

   笹川健次先生の「この冬のはやも雪降る寒き夜良薬湯に浸りいのち養ふ」についてこの方は
    先ず「良薬」と読んでこれを中心に意味を考えるのだが解らぬという。       
    は「ら」と発音する夜の接尾語。調子をつけ意味を強める働きをする。夜良の意味は夜に同じ。
    従って、薬湯(くすりゆと読むもやくとうと読むも可)に浸って命を養うとの意。

   また菅井博子さんの「ゆりかもめけさ曳く水脈のけ清かにいや長々し北帰近みかも」の水脈のけ
    読んだから意昧が分らなくなった。
    のけの「け」は接頭語で「け清かに」と清かににつく。「水脈の」で切れると説明して納得。

   この外、戦はとつけるとおののく、をつけるとそよぐとなる。顕つはたつ、集くはすだく
    斎場はゆにわ(旧かなではゆには)、夕星(ゆうづつ)、熾き火(おきび)等短歌になじみの薄い方には
    解かりにくい言葉が多い。それでも辞書を引き、人にたずねて何とか目の悪い方のためにお役に
    立ちたいと頑張っておられるご様子には心から敬意を表したい。
  京都歌会の方々がそれらの方にお力をお貸し下さると有難い。

○ この号がお手許に届く頃には全国大会も終了していると思う。今在京の会員がその準備に懸命に
    当っている。

○ 新人研修会を大会が終り次第行う予定。まず、歌を一首でも二首でも作って見ることが何より大切。
    初めから上手な人はいない。作って見ようとの意欲が大切。

○ 鳩山新政権が発足して、各閣僚は新政策を実現すべく張り切っている。その意気込みは壮とすべき
    だが、現実をよく見極めてやってもらいたい。

○ 新型インフルエンザの脅威は衰えず、この冬にかけて蔓延の兆があると言う。
  対策を至急講じてもらいたい、 と同時に各人も自衛の策を怠らぬよう。

先人の歌(2009年10月号)

 花田比露思の歌
   水浴(みあみ)


朝川に水浴(みあみ)し居れば脱ぎすてし衣服(ころも)の下ゆこほろぎ鳴くも
            『さんげ』明治四十一年


「故郷にて」と題がある。大学を卒業された先生は一先ず古処山の麗、福岡県甘木市
秋月の実家に帰郷された。まるで子供時代に戻ったように朝早くから川に飛び込む。
無邪気なこの戯れ心が徴笑ましい。「衣服の下ゆ」の具体性が見事に生きている。
                                            (水谷和子)

 
 林光雄の歌
   空


空ざまになびく薄の穂を研ぎて月冴えわたる富士の裾原
              『帰去来』平成四年


山荘の不尽庵より富士山を直視し、新鮮な表現で大自然を捉えた。空の方になびく薄
の穂の「動」と月明かりの「静」とを対比させ、天と地の溶け合った壮大な情景が浮かび
上がる。結句の名詞止は、上句の鋭い表現を包み込み、余韻と重みを感じる。   
                                            (篠田政夫)

二人詠(2009年10月号)

  この夕まぐれ    菅 井 博 子 京都

曙色の綿雲つぎつぎ生れゆきて今日は如何なる日の展かれむ
甕に挿すらふ梅の香にふり返るこの玄関の在り処かなしき
 「梅百句吟魂凍り尽しけり」かかげし軸ゆひびく底冷え
花を賞で歌を語りて魂合ひし君天翔くる歌を聞かせよ
ひんがしの堤に見れば夕森の大樹のうれに炎ゆる陽の色
夕早み浅葱の空に浮かびたるその月照のかすれて白し
きさらぎの冷えせまりくる河原辺にたゆたひ止まぬこの夕明り
勤くとも見えざる川面夕光のなかをガラスの小波の立つ
昏れずとも昏れずともよしと呟きて南へ追ひゆく茜さす川
落日のたまゆら疾し夕明りはたと消えたる闇の河原辺
陽の没るとたちまち月の光浴むこれの劫初に吾ただ一人
この星のこの夕まぐれ見し人の盈ちたる詩嚢を揺らしたまふな

   
  三井寺        浦 畑 淳 子 奈良

三井寺の夕ぐれ近き楼門に古りたる仁王の玉眼光る
夕つ日に映ゆる紅葉の下にたつわが身も心も共に染まりて
 「美麗(メイハオ)」の言葉にふともふりむけば身なり正しき中国の人
紅葉の木々の奥処の四季桜ひともと咲ける花のかそけさ
艶やかに楓の若木朱に染み巨きもみぢの下を彩どる
飛鳥代の三帝産湯となしましし霊泉の音閼伽井屋に高し
五寸釘打たれしほどに暴れしか甚五郎の竜物語りめく
幾度も兵火に罹(かか)りし三井寺の伽藍はもみぢの庭にしづもる
比蘇寺より移築と聞きて親しもよ寂び深めゐるふるさとの塔
もみぢ葉の下照る道の観世音優しき面に姉を顕たしむ
山の端に立ちて見放くる鳩の湖茜に染まり暮れゆかむとす
昏れ早く灯ともり初むる門前に鳴り渡りくる三井の晩鐘

添削の実例(2009年10月号)

                                   大津留 温
     
 (原作) はげし雨道をたたきて降る雨はアスファルトの道川の如くに
この夏は豪雨が続いた。その状況をうたったものだが、「はげし雨」と「道をたたきて降る雨」といささかダブリ気味。うまく統一できないか。「川の如くに」は流るはしるか動詞が欲しいところ。
 (添削歌) たたくがにはげしき雨はアスファ ルトの道をはしりぬ川の如くに
 
 (原作) 草を抜き水を遣りては育みぬ今朝初生りの茄子を愛しむ
これで十分意は通じるのだが、子規が言った「主観語を避ける」というのは「愛しむ」と言うコトバを使わずに具体的なものを使ってその気持ちを現わすというもの。
 (添削歌) 朝毎に草抜き水を遣りて来ぬ今朝見つけたり茄子の初生り
 
 (原作) 駈けゆける馬に跨る皇帝の凛々しかる像大き石上(へ)に
ロシア旅行で旧都サンクト・ペテルブルグにピョートル大帝の騎馬像を仰ぎ見ての詠。前半の駈けゆける、馬に跨るが長々しい。ために後半が「石上(へ)に」と窮屈になった。「馬を駈る」で十分ではないか。その分後半をゆったりと詠むことができる。
 (添削歌) 馬を駈る皇帝の姿凛々しかり大き銅像石の上に建つ
 
 (原作) 病み篤き師の声細く聞きとれず吾を励ます言葉変らず
病気の重い先生を見舞っての歌。「聞きとれず」と言いながら「言葉変らず」ではいいさかすじが通らぬ。か細い声ながら自分を励ます先生のお気持は十分に分ったとした。
 (添削歌) 病み篤き師の声か細しされど吾(あ)を励ますみ心しかと伝はる
 
 (原作) ここちよき風にさそはれ庭に出で花火の音は遠くに聞こゆ
情景はよく分かるが、「庭に出で」の主体は「われ」、後半は花火の音はと花火が主体。ちぐはぐの感じ。「庭に出で」ならば花火の音を聞く。「聞こゆ」ならば「庭に出づれば」とすれば平仄(ひょうそく)が合う。
(添削歌) ここちよき風にさそはれ庭に出で花火の音を間遠に聞くも

 (原作) まろやかな黒き猿橋珍しき釘を使はぬ橋なりといふ
「珍しい」と言いながら「釘を使はぬ」だけでは弱い。下句のを略して「釘一本も使はぬ」と強めた。珍しのは不要。
 (添削歌) まろやかな黒き猿橋珍しき釘一本も使はぬといふ
 
 (原作) まんまんと水を湛へし溜池に映るや空の青空清し
 「空の青空」というのはいささか無理ではないか。
 (添削歌) まんまんと水を湛へし溜池に映るみ空やあくまで青く
 
 (原作) 孫らみな皆既日食輝けるリングの映像褪めぬときめき
何十年ぶりかの天体のショー。皆夢中になった。原作は、日食、映像、ときめきと三句に分かれいずれも名庄め。リズム感がない。関係づける言葉が欲しい。
 (添削歌) 孫らみな皆既日食夢中なり輝くリングにときめき庄まず
 
 (原作) 名の知らぬ秋には実をもつ立枯は樹皮なし四尺鹿の枯らせる。あれこれ言いたいことが多すぎて、うまくまとめきれていない。宇句を整理して見た。
 (添削歌) 樹皮四尺鹿にかじられ政ち枯れぬ秋には実りありけむものを

歌会報告(2009年10月号)

○松山 8・3、開花亭、7名、塩野
 夏衣まとへば賜びし義姉上のおだしき面影顕つ孟蘭盆会           塩野名智子
 朝ごとに鳥の声音の変れるを聞きつつ季の移ろひを知る            佐野 幸子

○さわらび 8・3、天沼会議室、10名、村野
 富弘の絵にも詩にも魅せられつつ見る人々の歩みすすまず        古畑弥榮子
 黄の小花真白き苞の中に見ゆ十薬いぢらしひっそり咲ける           宮下 昌子

○有楽 8・5、日本倶楽部、16名、丹羽
 初夏の日にま白にひかる一所今を盛りに蕎麦の花咲く              森下  茂
 トラ歳の母は夜なべし目を細め千人針をひたすらに縫ふ             小暮  喬

○五條 8・6、中央公民館、6名、福本
 帰りゆく先祖の道のあかりよと聞きて供ふる盆のほほづき            福本 艶子

○秋月 8・7、秋月公民館、5名、篠原
 夜もすがら眠れぬままにラジオ聞くいつしか外は白みはじむる        中尾 富子
 鎧初め六十年ぶり秋月に復活したりめでたきことよ                  篠原ノブ子

○もえぎ 8・7、日本倶楽部、17名、上村
 帰宅して着換へ畑に出でし息(こ)が初生りトマトを自慢気に出す      重信 二郎
 お下がりのランドセル背負いともがらと九九を競いしふるさとの道       小川 文夫※

○久佐乃葉 8・8、ライトハウス、6名、福田
 狭庭にも夏の花々咲きいでて紫陽花の葉に小さきマイマイ            渡辺 さよ
 透析の医院の門に蝉ひとつ仰向きて居る八月の午後               福田 慎吾

○江南 8・8、扶桑福祉会館、22名、松井
 爪弾けばはるか聴こゆる遠砧(とほきぬた)衣うつ音の景色浮かび来    河村 愛子
 ラケットを振りかざしたる中三の若き闘魂コート飛び交ふ               土屋 正子

○奈良 8・9、桜井まほろばセンタ、17名、森本
 欠くるあり傾くありて道の辺の石の仏に五月雨やまず                  吉井  泰
 北朝鮮に帰りしと聞く同窓生不明者の欄にもその名はあらず           森本 弘恵

○あゆち 8・10、布袋北部学供、15名、細川
 手の平に乗るよな庭に涼しげな茗荷の青葉つんと立ちをり             広瀬 勝枝
 検査するその都度医師は良好と聞き入る夫は頬ゑみかへす          杉本 信子

○東京 8・11、鳥山区民会館、14名、上村
 兄征きし日も涙せぬ母なりき明治の女のつよき優しさ                 古畑弥柴子
 山路来てあき紫陽花の咲き揃ふみづみづしもよ藍の明るさ            田所 和代

○若葉 8・12、日本倶楽部、‥‥11名、墨
 天変に地異の重なり容赦なく自然の猛威知らさるる夏                 福嶋  等
 原爆の日の近づきぬ今年また夾竹桃の赤の眩しき                  奥山 裕司

○大阪 8・16、アウィーナ大阪、‥‥11名、坂口
 点々と柵にゐ並ぶ小蛙は青き絵具の音符に似たり                  臼田 篤子
 ぼつぼつに降らすはエーイ面倒といはむばかりのそこぬけの雨        宮脇 靖子

○京都 8・23、北文化会館、10名、森
 みんみんと鳴く蝉の声夏ですよ・咲くひまはりも聞きほれてます           砂川 玲子
 生身よりなほみづみづしルーブルに乙女像立つ「無垢」と題して          米田八重子

編集後記(2009年10月号)

○大津留直(ただし)君の歌集『仮橋』があけび叢書182巻として出販された。
  あけびの皆さんに進呈したいとの申出があり、先般送らせて頂いた。
  月々あけびに発表したもの、あけび賞に応募したもの、他の短歌大会に応募して
  入選した作品から成っている。
     こうしてまとまったものを 拝見すると、作者の趣向、歩いて来た道がよく判って
   正に作者の生きの息吹きを感じとることが出来る。
    ドイツ在留が長かったせいで、ドイツに関するものが多い。かの地では特に身障者に対
   する配慮が行き届いていて、街を歩いていると多くの人から声をかけられ「何か手助け
    することはありませんか」と問われるという。
   24年もかの地に留ったのは、この住み心地のよさに惹かれたに違いない。
   表紙は自画像とのこと、一見異様にも見えるが、よく見ると面差しはよく似ている。
   題名『仮橋』は、彼が尊敬するドイツの詩人ヘルダーリンの詩の中の言葉「かりそめの
   架け橋」からとったという。
   あけび十一月号で『仮橋』の鑑賞特集を行う。各歌会でもこれをテキストに鑑賞の意見
   交換をなされてはいかが。

○80巻記念合同歌集はおかげで皆さんから好評をえている。篠田、福嶋、上村の三氏から
  合同歌集編集の苦心などを書いてもらった。
  なお、多くの寄附を寄せられ深謝。まだ余部があるので、必要の向きはお申出で下さい。

○全国大会も間近い。それぞれの担当は、大会を成功させるべく準備に余念がない。
  選者の方々には、大会詠、あけび賞応募作品の採点に暑いさなかご苦労をおかけしてい
    ます。

○会員増加運動を始めます。東京では11月から新人特別講習を開始します。
    新人を連れて来て頂き新人むけの講習を行う。
  各地でも企画されてはいかが。必要があれば、東京から講師を派遣します。

○林光雄先生の深大寺の歌に次のものがある。
    い対かへる木群ひとところさ揺らぐは鵯かゐるらし鋭きこゑす
    歌意は明瞭で解説を要しないが、「い対かヘる」、「さ揺らぐ」と接頭語を巧みに使って
    歌の調子を整えている。また「鵯かゐるらし」と疑問詞を使っての強調。
   いろいろと学ぶベきものが多い。

○新型インフルエンザの大流行の兆ありとか。
  お互いに用心しましょう。うがいに手洗い、マスク使用。

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